コンドラチェンコ少将の石碑
『JOKER』19年/米
「俺の人生は悲劇だ。いや違う。これは喜劇だ。」
「主観で物事を言うな!俺は狂ってはいない!」
言わずと知れたこの年、この秋の話題作。アメリカン・コミックスの『バットマン』の敵役キャラであるジョーカーにスピンオフした本作。コミックの原作から『悪の根源とはなにか?』に強く追及する社会へ問題提起する映画に仕立てた。フィクションではあるが、どこか真実味があり、どこかでこんな犯罪者がでてくるかもしれないとそう感じる。ヴェネチア映画金獅子賞でも勿体ない。世界的な問題作になるのは間違いないと思う。
ジョーカーというとティム・バートン監督の『バットマン』、ジャック・ニコルソンが演じたジョーカーのイメージが強い私。ピエロの恰好でいつも高ら笑い、残虐非道。不気味に笑わそうとしている恐怖の存在であるジョーカー。ただバットマンに顔を焼かれ怒り狂い、バットマンに復讐する男ではない。
病弱な母親を看病しながら暮らし、コメディアンに憧れ、ピエロに扮して広告代をもらう仕事をする脳の疾患で突然笑いだす奇病をもつ孤高の男、アーサー。しかし、仕事の失敗から次々と不幸に苛まれ、次第にゴッサムシティの富裕層へと敵意をむき出すようになる。
アーサーの母親との関係や、ふと出会う人への愛は感じるのだが、それが憎しみへと変わるプロセスが、この世に蔓延る嫌な部分として浮き出てくる。
愛も減ったくれもない、ひねくれたものになるアーサー。金持ちが影響力ある社会に、偏見と蔑まれる存在のピエロ、ジョーカーに変貌し反発する。アメリカの貧富の差と社会福祉の軽視、銃社会、色々感じさせる映画でした。何回か見ないといけない。
映画の中でチャップリンのモダン・タイムスを観てるシーンが出てくるが、この映画の主題歌でもある『スマイル』では、「希望を持て」というメッセージがあるのに絶望からキレてタガが外れたジョーカーが踊り狂う映像にミスマッチながら強い印象を受ける。
バットマンが登場した時代(1939年)は主人公が金持ちでバックヤードが整った完全無欠な男が悪党どもを裁くという勧善懲悪なことが受けたかもしれないが、最近では貧富の差が激しすぎて、バットマンに感情移入するには、強盗に襲われて両親ともに殺された孤高のヒーローでは賄えなくなってきてしまっているな。どちらかというと貧乏で失うものなど何もない犯罪者の方が、みるものに共感を得るには十分ではある。アーサーと似た境遇な人は多いと思う。金持ちが犯罪者を裁く?バットマンは金で犯罪者を裁いてるだけだよ。
ロバート・デ・ニーロが脇役で出てるのがすごいが、何と言ってもホアキン・フェニックスの圧倒的演技だよ。彼の演じる不器用でもろい精神状態の男が悪党であるジョーカーを演じきった。
社会的に抑圧された人たちが多いのも事実だが、映画はそれに対して怒りを爆発させた映画だものだから上映を控えたいのもわからないでもない。衝動的に犯罪に走ってしまう人もいそうだろう。
『ブラック・クランズマン』(米・18年)
「白人のアメリカ万歳!」
原題は『BlacK k Klansman』でそのままなのだが「Klansman」はクー・クラックス・クラン団員のことを差し、黒人警察官が白人警察官とのコンビでKKKへの潜入捜査を描く。タイトルのBlackとの間にKが入るとkkkが並ぶという凝ったもの。実話が元というからすごい。
監督のスパイク・リーは黒人。黒人社会の風刺や差別を描くメッセージ性の強い作風で『ブラック・ムービー』と呼ばれる黒人映画(ハッピーエンドは少ない。)の第一人者でもある。とても暗い内容なのだが、この作品は現在も続くKKKの存在を痛烈に告発している。シニカルな一場面は多数ある。
ストーリーにやはり引き込まれるので見ていて飽きないし集中して観れる。KKKとの対立組織にブラック・パンサーがあるのだが、主人公の黒人捜査官はブラック・パンサーの女性会長と知り合うし、パートナーの白人警官はユダヤ人(宗教色は強くないが、差別意識はない。)で白人優位主義者としてふるまう。面白い作品。現代にも続く「アメリカ・ファースト」って何か?をテーマに今でも白人がアメリカの優位な地位にいるのはなぜか?というメッセージがある。
KKKは今でも活動してるし、団体は非暴力を主張してるけど、本当の活動は過激だという告発がされている。