『戦争のはらわた』(75年・米)

彼の敗北を喜ぶなかれ 世界がその畜生に立ち向かい 阻んでも そいつを生んだメス犬が 又発情する ベルナルド・ブレヒト 戦争は真の文化人の人生の最高の表現だ フリードリヒ・フォン・ベルンハルディ 戦争は政策の継続でしかない 他の手段による クラウゼヴィッツ
第二次大戦、ドイツ軍とソ連軍が対峙する東部最前線の中に歴戦のドイツ国防兵伍長シュタイナーがいた。新任の司令官の就任で対立するシュタイナー。そしてソ連軍の猛攻が開始される。 言わずと知れた戦争映画の金字塔。バイオレンス映画の巨匠サム・ペキンパー監督『ワイルド・バンチ』と並び代表作と言われる本作。ようやく観れた。 この泥臭さと荒々しさ、カチカチ変わるカット割り、ダイナミズムといったらサム・ペキンパーしかいないだろう。戦争映画のスペクタクルはあまり感じないが、安っぽさは全くない。綺麗事は無用。爆煙と泥の中の綺麗事などない戦場の兵隊の真の姿がここにある。 戦争映画に求められることは迫力の戦闘シーンだろう。でも本作はドラマも素晴らしい。いわば内紛だが戦場に身を投じた人間のすることとは?も考えさせられる。コバーンの男臭さもいい。皮肉めいた演出も垣間見れる。 全体的にこの泥と煙の描写がまた戦場の荒々しさを表現していると思う。観たのはDVDだがフィルムの粒子とこの泥と煙が人の輪郭や細部をザラザラにさせている。現在の映像美主義からは全く反する監督の意向が見受けられる。 撮影の特筆すべきことはスローモーションとカット割り。これはペキンパー独自の物だと散々言われていると思う。スローモーションは抽象的に描写をとらえ、そのカットを印象深くする。でもただ印象的に描くだけではなく通常スピードのカットと交互にスローモーションが差し込まれる同時進行、そのカットの速さもまたペキンパーならでは。この編集はカットの多さで人の脳を混乱させるが、通常スピードの再生カットと差し込むことで進行具合にさほど問題はない。「あんなカットあったな」と人に覚えさせる「画」がまた卓越していると思う。いきなりの場面転換では違和感を覚える人もいるだろう。ただ敵の急襲に司令部では混乱し、前線では迎撃にしどろもどろする描写が展開される。 ペキンパー監督自身、戦中海兵隊で日本軍の武装解除に従軍したとありますが、中国で中国兵の日本人の拷問を目撃したとあり、それがバイオレンス描写に影響があるとのことらしい。 しかし原題が『Cross Of Iron』(鉄十字、ドイツ軍の名誉勲章)なのに 邦題が『戦争のはらわた』なんてペキンパーのことを理解してか嫌がらせかわからないな。