『モレク神』(99年・ロシア=ドイツ=ニホン=イタリア=フランス)

荒鷲の要塞に、主の帰りを待つ女、エヴァ・ブラウン

彼女が待つのはアドルフ・ヒトラー

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ヒトラーが腹心のヨーゼフ・ゲッペルス、その夫人のマグダ、マルティン・ホーマンとともに休暇にやってくる。彼はエヴァと二人になると、「自分はガンで死ぬ。仕事をしたくない。」と愚痴をこぼす。彼が山荘にいる数日を、ヒトラーの周囲の人間、彼の残虐性や幼稚さ、心の弱さや不安定さを描いていく。

ヒトラーを描いた作品といえばチャップリンの『独裁者』がスタンダードな感じがするが、あれはあれで独裁者を徹底的にコメディアンにコケにすることで、彼の肖像を滑稽なものにした作品だったが、この作品は彼の人間性に焦点を当てていて、愛人のエヴァにだけ自分の本性を出す一人の人間として描いている。側近のゲッペルス、ホーマンの二人はヒトラーの機嫌取りに四苦八苦しているし、彼のつかみどころのない性格には護衛の兵士や女中がオドオドしているし、そこが滑稽なんだな。ピクニックに出かけるヒトラー一行に、護衛の兵士が荷物やレコードを持って、踊るヒトラーを無表情で見るのもね。野グソを隠れてするヒトラーを見つけちゃう兵士も「独裁者が野グソしている」なんて信じられないだろうね。

SS(ナチス親衛隊)将校のビシッとした軍服には軍隊の規律や気高さが感じるが、そのピクニックに出かける一行との落差がまたミスマッチな感じがする。あの岩の上に登るシルエットからしてシュッとした軍服がね。

いつも曇りがちの荒い映像はこの映画でもそうで、雲の上にある別荘の下界との孤立感が現れている。ここは誰も近づけないヒトラーエヴァだけの世界なのだ。