鬼…鬼だ!『鬼婆』(64年・近代映画協会)

「わしは人間じゃー!」

鬼婆

鬼婆

内容(「DVD NAVIGATOR」データベースより)
『恐山の女』の吉村実子出演の和製ホラー。戦国時代、落武者の武具・甲胄を売りさばいて暮らしている義母と娘がいた。娘の夫の友人が帰郷し、娘と激しく燃える姿をみた義母は嫉妬のあまり般若の面をつけて二人を脅かすが遂に面がとれなくなる…。

新年早々どえらいもんを見てしまった。この映画はショッキング。観た後、うなだれるぐらいのショックがある。いい意味で新藤兼人の演出はすごいよ。乙羽信子さん、なんてすごい役者だろう。

笹が生い茂る湿地帯。そこに迷い込んだ落ち武者を襲撃し、甲冑をはいで売りさばき、死体を穴に捨てる鬼のような母娘がいた。ある日、母の息子(娘の夫)と共に、戦に連れて行かれた男が戻ってくる。彼が言うには息子は殺されたのだという。夫を亡くした娘は戻ってきた男に誘惑され、夜な夜な抜け出して男の住処に行くようになるのだが、母はそれに嫉妬する。ある夜、娘の夜の行動を追う母の前に謎の般若の面をつけた侍が現れるのだが…。

これほど見てくれの悪い映画はそうない。乙羽信子の演じる母の目、形相、まさに鬼だ。暑い夜に半裸で寝る母と娘(吉村実子)の荒くれ姿。吉村実子の野生たるエロスもすごい。新藤兼人のこの下品さは深作欣二よりすごいかも。野獣のように画面いっぱいに広がるエネルギーが刺激になって目に焼きつく。インサートで入る笹のなびき、草原を走る疾走感、舞台の世界も笹で表現しているのも意味深い。

DVDでは撮影当時のプライベートフィルムが特典で入っている。8mmらしく音は入っていないのだが、撮影場所は千葉県印旛郡栄町安食というところで撮影されたようだ。生い茂る笹の湿地帯にバラック小屋を設営して、ロケをしたようだ。湿地帯なので水はけが悪いようで、夜になると羽虫が大量に飛ぶところだったようだ。撮影スタッフ、役者、監督ももちろん出ている。現場はとても暑そう。