『私は二歳』(62年・大映)

「ぼくが生まれて最初に見たものはぼんやりとした影だ。」
私は二歳 [DVD]

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物語:一歳半になるターちゃんこと太郎は、赤ん坊の頃から大人顔負けの分析と意見を考えていた。しかし両親には何も分かってもらえない。育児をテーマに家族と人の真理に迫る。市川崑監督による異色ホームドラマ。 赤ん坊の頃からすでに自我に目覚めていたという設定は『ベイビー・トーク』というアメリカ映画にもあるけれど、2歳にも満たない赤ん坊が大人に対するユニークな視点、人の尊厳や家族の確執まで描いた作品として原作の松田道雄市川崑和田夏十さんは素晴らしい。もう半世紀前にもなる本作は今でも育児書に変わる、子供を育てるというのはどういうことなのかを教えてくれると思う。子供ができるという人にはまず見てほしい作品。 まず子供の周りにある危険性を色々紹介してくれている。(映画冒頭では団地に住む夫婦という設定。) そして映画は育児をする母親の美しさというものを表現していると思う。夏に汗まみれで赤ん坊にお風呂につける母親のシーンは、育児の大変さを知るとともに人はいつかこのようなことを母親にされて育ってきたのだと思い起こしてくれる。親には労働だろうが綺麗なんだよね。 また子供が生まれてから変わる家族関係の変化が出てくる。映画では夫の兄弟の転勤で、それまで同居していた夫の母を一人暮らしにはさせまいと、代わりに実家に引っ越して同居をすることなるのだが、だんだんと子供の育児の違いから妻と対立するという展開。 ここからネタばれ含む。 「日本には人が多すぎるっていうだろ。一人でも減った方が日本が助かるってもんだよ。」 上のセリフは若者のオートバイの事故死の記事を新聞で読んだ老婆(夫の母)が憤慨して姑にいう言葉で、親からもらった命を粗末に扱う奴は死ねばいいと吐き捨てる。孫が生まれたばかりの老婆が言うセリフかと思ったのだが、若者の死に対して憤慨する老婆の死期を迎える心情と命というものの嘆きともとれる。 森永乳業のタイアップ作品だそうで所々森永の製品を見つけることができる。市川崑だなと感じたシーンは色々あって、煙草をくわえながら育児に対する愚痴をこぼす船越英二のカット。(市川崑はヘビースモーカーでくわえ煙草で話すこともあった。)毛糸玉が転がるカット。二歳の誕生日に暗がりでケーキのろうそくだけが光り輝くカットなど。