『証人の椅子』(65年・大映)

「検察組言いよったわ。まるでヤクザや。」
証人の椅子 [VHS]

証人の椅子 [VHS]

  • 出版社/メーカー: 大映
  • メディア: VHS
徳島ラジオ商殺人事件を描いた開高建の小説『片隅の迷路』を山本薩夫が映画化。ありきたりな強盗殺人事件が検察の圧力によって簡単に犯人に仕立て上げられる冤罪の恐怖を描く。 事件が起きてから現場の状況、目撃者の証言などから犯人は殺害された夫の妻だと裁判が行わる。実は警察の捜査の行き詰まりから検察が証人を誘導尋問して証言を捏造し、犯人をでっち上げていた。一度は有罪判決が下った後で新たな容疑者の登場と証人の供述調書の実態が明るみになったことで事件は新たな展開を見せる。 有罪が確定するまでのプロセスと事件の概要をうまくまとめた作風で、最初のメインタイトルから目が離せられない。(クレジットタイトルは映画のラストで出る。)食い違いを見せる証言に新たな証言で事件の推理は混乱する。逮捕された妻の義理の弟が音信不通の証人を探しては証言の矛盾を一つ一つ解決していく。 怖いのは検察のエリートが捜査線に浮上した身内犯行説を信じて独走し、証人の証言を捻じ曲げ、あたかも犯人だと言わせる怖さ。人の弱い所にズカズカと入り、事実関係まで曲げさせる。そして犯人とされた妻でさえ、経済的負担から再審も出すことができず、裁判の有罪判決を不服としながらも身内だけで無罪だと信じてくれればいいと言わせる怖さ。 組織立った検察の権力。ラストに解放感はない。後味の悪さが見た後も尾を引いている。