『原爆の子』(52年・近代映画協会)

「死なーせんけんどうもせん。」
原爆の子 [DVD]

原爆の子 [DVD]

瀬戸内海の厳島で小学校の教員を務めている女教師が4年ぶりに故郷の広島市を訪れる。家族は原爆で犠牲となり唯一彼女だけが助かった。当時幼稚園の保母をしていたのだが原爆で生き残った3人の園児たちの近況を知ろうと訪ね歩く。 今年5月に亡くなった新藤兼人監督の近代映画協会設立後初の映画。戦後初の原爆を取り扱った作品でもある。DVDで観賞したがフィルム映像の経年劣化が激しく、キズが多いのが残念。映画撮影当時の1952年の広島市の映像が貴重である。ガレキや廃墟が残る中でも街が再建されビルや民家が並んでいるのには驚いた。原爆からわずか7年で商店も立ち並んでいる。当時の原爆ドーム、欄干の壊れた萬代橋(よろずよばし)、石垣だけが残る広島城、建築途中の平和記念資料館の映像もある。 『愛妻物語』、『裸の島』と並び代表作として名高い本作。原爆の被害を色濃く残す戦後の広島を切り取った作品である。新藤さんはいつも反戦反核の精神で映画を撮られている。被害を受けて死んだ者、生き残った者、後遺症に苦しんでもなお幸せをつかもうとする人たち。観ていて希望を感じてしまう。 新藤さんは脚本家として有名だがいつも底辺に生きる人たちに目を向ける脚本が多いように思う。貧困のリアルさの追求もまた映画に強く浮き出ていると思う。