『どぶ』(54年・近代映画協会)

「この河童沼には昔、河童がたくさんいたんだ。」

どぶ

どぶ

内容(「DVD NAVIGATOR」データベースより)
新藤監督と棚田吾郎のオリジナル脚本。京浜工業地帯の下層階級を舞台に、一人の知恵遅れの女の純真さに心動かされ、怠け者だった男たちが自ら人生を更正していく現在の寓話。『陽のあたる坂道』の宇野重吉が共演している。

 

いや~この作品は面白い。ここまで貧しかった日本の生活。それに伴う人の心の荒れ。ずる賢くて、可笑して、残酷な社会に一人の狂人の娘。乙羽信子さんってすごい役者だな~。

ストに参加しない労働者、競輪狂の男、元役者だったと語る男、うなぎを取る男、新興宗教にすがる老婆、一癖も二癖もある人間模様。『どですかでん』を思い出したけど、こちらのほうが「どん底」という感じがする。イタリアンネオレアリスモを思わせるような貧しい生活。でもいかにも貧しい生活にあって、ほのかに可笑しいエピソード、終盤ガラリと変わる雰囲気等、素晴らしいなとうなってしまう。

鯉のぼりを掛け布団に寝たり、飲み屋で「焼酎コップ半分!」と言っていい加減な告ぎ方で得をしたり、生活苦がにじみ出てるけど、そこがおもしろい。一緒に観ていた母が、「昔はどこの家でも壁に古新聞を貼っ付けたり、床はゴザを敷いただけの床で、バラックみたいな家がほとんどだったよ。」と後で言っていた。現代を生きる僕としては、まったく別の時代のことだけあって、「すごい生活だな~。」とほんとに驚く。

強烈な印象を貰ったのが、やっぱり乙羽信子さんの怪演であって、「こんな役者は今いないな~。」と思う。あの顔は一生忘れないだろうな。

こういう下層社会を描いた作品が好まれるのも日本映画のよいところだろうな。とても親近感が沸く。

これを観る前にバッタリ、K先生に遭遇。一年ぶりか、いろんな話に花が咲いた。隣で一緒になって笑った。